『3 ハル』

 アキお手製の食事が出てくる頃には、ナツの気持も幾分か落ち着き、私たちはそれを大人しく食べた。

おにぎりとインスタントのお味噌汁、それから甘いたまご焼き。

いきなり家に押しかけてゲロを吐いた友人たちを咎めもせず、こんなに暖かく出迎えてくれるアキは本当に素晴らしい人格者であると思う。
地上に降りた最後の天使に違いない。
アキの瞳は一万ボルトである。

 素朴で美味しいそれらをもくもくと食べ終えて熱い番茶に手を伸ばす頃、私たちは冷静さと気力を取り戻し、「何故ナツはこうも浮気をされるのか」という命題をのんびりと真面目に議論し始めた。

「だから男はみんな浮気するんだってば」
 ナツの主張はその一言に尽きた。

「えー、浮気しない人もいるでしょう。しない、っていうか、出来ない人」
 ぬれせんべいをお皿に盛りながらアキが言う。凡人の代表みたいなアキらしい発言だ。

「ナツの言う『みんな』は『ナツがつき合った男はみんな』って意味でしょ?ナツがダメ男磁石なんだよ」
 そう言って盛られたぬれせんに早速手を伸ばす私。ナツは口を尖らせる。

「ダメ男磁石ってなによう!だめんずウォーカーって言ってよ!」
「おんなじ意味でしょ」
「トレンド感が違うのよ!」
「恋愛べたにトレンドもブレンドもあるかい!」
「べたってなによー!少なくともハルより私の方が経験豊富なんだから!」
「質より量が定義のそんな豊富ならクソ喰らえじゃ!」
「んだとコラー!」
「やんのかあァア!?」
「こらこらこらこら」

 ぐいっとアキが私たちの間に割り込む。
「ケンカしないケンカしない。みんな違ってみんないい、でしょ?」

 長い付き合いだとケンカの仲裁も慣れたものだ。
 金子みすゞもこんな低俗なケンカの仲裁に自作の引用をされて甚だ不本意だろうが、とりあえず私たちはいつもこの一言で頭を冷やす。

私たちは無言でぬれせんを頬張った。

「ナツは優しいいい子なのにねぇ」
 アキが番茶を冷ましながらポツリと言った。

それについては同感である、と私も思った。