『9 ナツ』

いそいそと場所を移り、アキと冬野の連れの女の会話が聞こえるところに移動する。

「ねぇ、ホント何か用事があるんなら早くしてくれる?私たちそろそろ休憩時間終わるんだけど」
「だからぁ、私はこの方に用事があるんで、おばさんにはカンケーないんですけどぉ?先にお帰りになったらいかがですかぁ?」

相変わらず二人はやり合っている。
ってか冬野の連れの女の子、化粧うまいなぁ。ナチュラルぶってるけどに地顔が全く分からない。

「アキさぁ…バレたよね?」
ハルが小声で言う。アキから視線を離すことなく。
「さっき、冬野君と喋ってて、変に黙った時あったじゃん?あん時に」

「んー…たぶん」
眉をしかめる私。詰めが甘かった。
さっき冬野とアキの目が合った時、マズイと思ったんだよね。
うまい事出来たとは思ったんだけど、至近距離で目を見ると親しい相手にはどうしてもばれちゃう。
アキに注意しておけばよかった。

でもこんなにごちゃごちゃと長引くとは思わなかったんだもん。
冬野の横にナチュラル地顔不明女が居て、読モメイク主婦に絡むとは思わなかったんだもん。

「おばさんおばさんんって、さっきからやめてくれる?私あんたとそんなに歳変わんないと思うんだけど?」
「それは失礼しましたー。おばさんが先に私の事若いって言ったんでぇ。初対面の相手に上からタメ口って余程年齢差がないとやらないし?敬語が使えない失礼な方ってわけでもないでしょうし?って思って?じゃあおばさんなのかな?って思ってぇー」
「う」

ナチュラルメイクが言いくるめられている。

「アキ、よく喋るね」
ハルが呆気にとられている。
「あの子、恋愛の修羅場とか昼ドラでしか知らないから楽しんでるんじゃないの?」
マイナス5歳メイクが実に活き活きと小芝居を打つのを私は不思議な気持ちで見ていた。