『8 アキ』

私は大きく息を吸った。

思えば親友の痴情が変なふうにもつれてとばっちりを受けた形だが、近年恋心を打ち明けるような事もなかったし、マイナス5歳メイクもしてもらったことだし、これはもうドッキリ企画を引き受けたグラビアアイドルにでもなったつもりで旦那に好きだと告白しよう。
そうしようそうしよう。
別に本当に好きな相手なんだからいいじゃないか。

私は意を決した。
顔を上げ、視線はソラ君のそれにぶつけ。

目は口ほどにモノを言うとはよく聞くが。

今、視線を重ねたソラ君の目は、テレパシーレベルでモノを言った。

『お前、アキじゃね?』

ばれた。

私は速攻で俯いた。
それでもソラ君の視線は
『アキでしょ?アキだよね?何してるの?てかその格好どうしたの?俺に用なの?てかホント何?って言うかホントにアキ?』
とぐさぐさと質問攻めしているのが良く分かる。

私はソラ君に向けたつむじから
『いや、それがあのあと色々ありまして…』
と弁解電波を届けるが果たして届いているかは謎である。

それでもミッションをクリアしなくては、と思い、
『私はアキじゃないですよ、別人ですよ』的表明のため声を変えて話し始める。

「ワタシー」

声を変えすぎて『プライバシーの保護の為一部変えられた音声』になってしまった。

失敗だ。もう手持ちのカードがない。
ミッションまじでインポッシブルである。

変な空気が辺りを覆う。
私たちはお互い何も言えないでいる。
誰かこの空気を打破してください。
壁際にいるであろう二人よ、ドッキリの看板を持って「てってれー!」って現れろ。

「ちょっとちょっとちょおっとぉ!」
しかしこの空気を打破したのはドッキリの看板ではなく、さっき私の前に仁王立ちした女性だった。