『4 ソラ』


お腹がいっぱいだというのはとても幸せなことであるが、食べすぎは体に良くない。

「冬野先輩、めっちゃ食いますねぇ。俺の倍ぐらい食べてんじゃないですか?」

同じ部署の後輩が感心したように俺の前にある豚の生姜焼き定食とうどんとから揚げとサラダが綺麗に平らげられた空の皿を見ている。

昼真っ只中の定食屋。二人掛けのテーブルにこんなに皿を載せている連中は他に居ない。

実は食べすぎで苦しいのだが、後輩があまりにも「そんなにいっぱい食えちゃう先輩尊敬っす」という曇りのない視線で見つめるのでついつい見栄をはってしまう。

「そっちが小食なんだよ。男たるもの大盛りカレーとサラダだけじゃなくてスープと杏仁豆腐もプラスくらい食ってみろ」
「杏仁豆腐は女の子っぽいけど男ですか」
「男だ」
「はぁ」

無理した割に不毛な会話だ。

「そろそろ行こうか」

不毛な会話を終わりにしたいのと、いい加減立たないと苦しいのとで、俺は後輩に声をかけた。

後輩は、はい、と素直にそれに従いながらも、先輩、メニューに杏仁豆腐ないっすよ、とまだその会話を引きずろうとしていたので聞こえないふりをした。

店の外に出る。俺は後輩を振り返って言った。

「俺、今から本屋寄って行くけど、お前どうする?先戻る?」
「あ、俺もヤンジャン買いたいんでお供するっす」

俺たちは並んで歩き、ハルの勤めている本屋に向かう。