俺は真正の馬鹿だと思う。 



無理やり不良の舎弟にされて、その日から怯えるっつーか頭の痛いっつーか、そんな日々が訪れて。

ヨウに出会ったことを凄く後悔した。

あの時なんでチャリを爆走させちまったんだと嘆いたし、あの出来事を取り消したいと思ったし、おかげでタコ沢に恨み買っちまったし。


今だってその気持ちは変わらない。

俺、前のように地味で平凡で薄情三人組と適当で平穏な日々を送りたいと思っている。


なのにどうしてチャリを走らせているんだろうな。


多分、見ちまったからだと思う。

仲間が危機に曝されていると知った時のヨウの顔を。

バイクでも途中までしか行けない川岸の廃工場に仲間の為に、走ってでも向かうなんて。

あんなヨウを見ていたら、何か手を貸したくなるじゃん。何かしてやりたくなるじゃん。

きっと此処で何もしなかったら、仮に平穏な日々が戻ってきても俺は一生後悔すると思うんだ。


不良に手を貸して後悔するのと、何もしないで後悔するのだったら、手を貸して後悔した方が後味良いじゃん。


俺には腕っ節なんて無いけどさ。

俺には喧嘩経験なんて殆ど無いけどさ。


ハンドルを切って俺はスピードを落とさず通行人を器用に避けていく。


通行人に目を配り、俺は派手な不良の姿を探す。この周辺にはいないようだ。


まだ先に行ったのか?

ペダルを漕いでいると、信号前で立ち止まっている不良を見つける。


息があがっているのか、膝に手を置いて赤になっている信号を睨んでいる。


信号を待つ時間さえ惜しいようだ。俺はチャリを止めた。



「ヨウ!」



弾かれたようにヨウがこっちを見てきた。

俺は笑って後ろを指差した。


「急ぐんだろ? 乗れよ」


俺は腕っ節も無いし、喧嘩経験も殆ど無いけど、お前の足くらいならなれるんじゃないかと思う。なあ、そうだろ?


あがった息を整えながらヨウは俺を見て小さく笑った。

やっぱイケメンの笑う顔って反則だよな。


どんな時でも格好良く見えるんだかさ。


ヨウは迷うことなく俺の後ろに乗ってきた。

しっかり肩に手を置いて掴んでくる。

後ろを一瞥して俺はペダルに片足を乗せた。


「注意事項は三つ。荒運転でいくから振り落とされるな。振り落とされても俺は拾わない。とにかく限界までスピードを出す。以上」

「オーケー。いつでもいいぜ。舎弟」


俺はペダルを力一杯踏み、信号とは別の方向へ走らせる。

ヨウは「ハア?!」声を出してきた。

予想外の行動だったんだろう。運転に集中しながらヨウに説明した。


「この先、四つの信号が待っている。んでもって信号で時間食う確率が高い。だったら裏道を通った方がいい」

「ケイ。分かるのか、道」


「任せとけよ。裏道を使えば、十分以内で着く。しっかり掴まっとけ!」


ハンドルを右に切って細い路地裏へと入って行く。

妙に湿気た生臭い空気が鼻腔を擽るけど、振り切るように俺はペダルを漕いでいく。


転がっている空き缶がチャリの何処かに当たったのか甲高い音を立てて、宙を舞いまた地面へと叩きつけられていた。


どっかの店のエアコン室外機にぶつかりそうになりながらも速度は落とさない。


路地裏を抜けると直ぐに民家のコンクリート塀が現われた。