気温の下がる明け方の事、

本来なら上着も着ずにこんな所に寝転んでいれば、
風邪を引いていてもおかしくないと言うのに、

不思議と寒さは感じない。

周りを見れば、

本殿へ向かう石段の隅に
二人の上着と荷物がきちんと置かれている。



「お姉ちゃん、これを見て。
いつの間にかに僕、握っていた。」



と言って起き上がった孝史は
自分の手の平を見せた。

するとそこには季節はずれの銀杏の実が、

それも普通よりかなり大きな、
艶の良い銀杏の実があった。



「まあ… 私たちどうしたのかしら。

どうしてこんな所で眠っていたのかしら。

確かギナマが… 
そう言えばあの時いきなり眠くなり、

いえ、爆発のようなものが起こり… 
寝てしまったのかしら。」



何故自分たちがこんな所にいるのか… 

かおるは必死に思い出そうとしているのだが、

それを説明する記憶が、
過去からすっかり抜け落ち、

その空白を埋めるために、
悪夢のような事が断片的に浮かんでいる気持ちがしている。

あの時、何があったのだろう。

何かが起こったことは確かだ。


かおるは、
自分の記憶の糸を引き寄せようと、
いろいろ考えているが、

隣の孝史は、
ただ嬉しそうな笑みを浮かべ、

手の平に収まっている銀杏の実を見入っている。



「うん、おかしいね。
でも、僕感じるよ。

これってギナマだと思う。

拾った覚えは無いから… 
僕にずっと持っていて欲しいって事だよ。」



孝史はその銀杏の実を
愛おしそうに見つめている。

かおるは昨夜の事、
成り行きが知りたかったが、

何故か孝史はそんな事など忘れたかのように、

その実に関心が行っている。