幼い頃、乃里子は自分の生活が一般的に普通のものだと思っていた。


門から玄関までが車で5分程かかるのも当たり前。


家の中で大勢のお手伝いさんが働いているのも当たり前。


あまり会えない父親、綺麗に着飾っていつも穏やかな母親、習い事に忙しそうな兄。


幼い乃里子の面倒は乳母が見るのも当たり前。


世の中はそんな当たり前だらけの世界だと思っていたのに、現実はあまりにも違った。


幼い乃里子を姫のように扱う教師や大人達。


同年代の子供達との明かな違いを見せ付けられる日々。


その頃から乃里子の中で当たり前が『異常』に変わった。


だからといって乃里子は普通を真似る訳でもなく、異常を自慢する訳でもなく、日々に嘆く訳でもなく過ごしていた。