奈央は代々の資産家の家に生まれた。



彼女が幼い頃、両親は本当に仲が良かった。



時には、奈央の入るスキもないくらいに。



よく、父は奈央を邪魔にした。



「母さんと二人きりにさせてくれよぅ。奈央だってそろそろ弟や妹欲しいだろ?」



そう言って父は母にべたべたした。



もちろん奈央は父が本気で彼女を邪魔にしてる訳がないことを幼心にも知っていたし、むしろ母の嬉しそうな顔を見て自分から早い時間に子供部屋に引っ込んでいたくらいだ。



「ゆーりーこっ。愛してるよぉ」



ドアの外から聞こえてくる父のおどけた甘え声は、奈央の耳にくすぐったく響いた。