―――ピリリリリ ピリリリリ



けたたましい着信音に、ベッドから重たい体を何とか持ち上げた。

音の場所を探し当て、画面を確認しないまま電話に出た。



「もしもし……」



声が死んでる。
こんな自分の声、知らない。


受話器の向こう側で、一瞬沈黙が落ちた。
そして、ため息の気配がしてすぐにいつもの口調が向けられた。



『ちょっと志穂! アンタ寝てたの?今日が何月何日か忘れたわけじゃないわよね?ちゃんと時間にはこっちに来るように、ほら!はやく起きて』

「……わかってる」



短くそう応えて、通話の途切れたスマホがスルリと手の中から抜け落ちた。


カシャン!



そのまま手を引っ込めて布団に潜り込んだその時。




――ピリリリリ! ピリリリリ!



再び耳障りな着信音がして、ギュッと耳を抑えた。


もう、わかってる!
ちゃんと行くってばぁ!


ううう、って頭を抱え込むあたしなんかお構いなし。
永遠と鳴りつづけるその音に耐え切れなくなって、ガバっと起き上がるとスマホを耳に押し当てた。



「あのねお母さんっ、ちゃんと起きてるから大丈夫だってば!」



死んだ声のまま、絶叫したもんだから。
再び受話器の向こうが押し黙る。

そして、今度は苛立つ気配を感じて心底呆れたような声色がした。





『俺はお前の母親になったつもりはないぞ、志穂』

「……」






それは、久しぶりに聴くハル王子の声だった。