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翌日。

私は一人、犬飼くんの住むアパートへと向かっていた。

時間は11時。


【 今アパート近くのスーパーに居るんだけど、何か欲しいものとかある? 】


昨日村雨くんと行ったスーパーに入り、犬飼くんにメールを送る。

……結局、村雨くんとはあれ以来やり取りをしていない。
私がメールすれば返事をくれるだろうけど、メールすること自体が怖かった。




ブー ブー ブー


……あ、犬飼くんからの返事だ。


【 肉。 】


え、肉って……昨日倒れちゃったのに、今日すぐに食べる気?

ていうか、あんまりお金持ってきてないから、お肉を買うとなるとちょっとキツいんだけど……。


♪〜♪〜♪〜


わっ……犬飼くんから電話だ!!


「もしもしっ?」

『あ、奈央ちゃん? 今から行くからちょっと待ってて』

「え? あ、ちょっと……」


……切れちゃった。

今から行く、って……昨日はかなりツラそうだったのに、大丈夫かな?

心配しながら、お肉売場で待っていたら……キョロキョロと辺りを見回しながら、伊達メガネをかけた犬飼くんがやって来た。


「犬飼くん」

「おー、お待たせー」


なんだかもう、すっかり元気そう。 と言っても、強がる人だから多分また無理してるんだろうな……。


「病人なんだから、寝てなきゃダメだよ? 明日からまた学校なんだし」

「わかってるけど、もう少ししたらさゆが来るんだ。
だから、今だけは奈央ちゃんと二人で買い物したいなぁって思ってさ」

「あ、小百合ちゃん今日も来るんだ?」

「うん」


……そっか。 小百合ちゃんが来るなら、私が来る必要なんてなかったかも。

私に出来ないようなことでも、小百合ちゃんならきっとすんなりやってのけてしまう。

そんな気がするから、私が来なくても平気だったかも。 なんて考えていたら……犬飼くんはにっこり笑って手を握った。


「昨日のこと、啓介から聞いてるよ」

「え? そう、なの……?」

「うん、昨日の夜に啓介がウチに来て、色々話してくれた。
俺もね、さゆと自分を比べるなんて無意味なことだって思うよ」


……無意味なこと、なのかな……。

なんでも出来ちゃいそうな小百合ちゃんと、何も出来ない私……。
一緒に居たらついつい比べちゃうし、「なんで私なの?」ってことも思っちゃう。

無意味だって言われても、どうしても考えちゃうよ……。




「ま、とりあえず買い物して部屋に帰って、それから色々話そうか。
ここではあんまり詳しくは話せないしね」

「あっ、うん……」


私の手から買い物カゴを取った犬飼くんは、次から次へと牛肉を入れていく。
それから野菜コーナーに行って、玉ねぎの袋を3つと紅ショウガもカゴに入れる。

この材料で出来るのは……。


「実はさ、昨日から牛丼食べたかったんだ」


……やっぱり、牛丼だよね。