どうやって名古屋から車を走らせてきたのか。


完全に冷静さを欠いていたというのに、
事故も違反のひとつも起こさず、無事に東京に着いていた。


気づけば僕は自宅で、
階段をかけ上がり、

その扉を開けていて。


大切な人の、
守りたいと思った細い肩を、

力ずくでつかんで揺らしていた。



「桜子ッ!」


驚きというよりは恐怖に近い顔で、彼女は僕を見上げる。


「……本当なのか?!」

「……っ」

「うちの店に面接に行ったって……本当なのかよ!」


叫びが、僕の理性を裏切ってあふれた。


こんな風に叫んで他人を責めることなんか、
自分にはありえないと今まで思っていたのに。


「――ごめ……なさいっ」


ほとんど搾り出すような声で、彼女が言った。


「ごめんなさい……っ」

「桜――」

「けど……自分で決めたことだから」


言葉だけを残して、彼女の体は床に崩れた。


視界が、
世界が、
ぐらりと揺らぐ。


立っているのがやっとの状態で、僕は彼女を見下ろしている。