2.嘘をついたのは誰


「動くな!警察だ」

「いや、違うな。動くなー!警察だ」

サイレンを鳴らすパトカーが、一般車両の脇をすり抜けながら公道を突き進んでいく。

車内では新人刑事・西董子が、刑事の決め台詞をしきりに練習していた。

「この警察手帳が、目に入らぬか。違うな」

「西。そのセリフの出番は、まずねぇぞ」

運転しているのは先輩刑事・原田一平。
刑事になったばかりの西の、指導役でもある。

「練習するなら、このセリフだ。『妙ですねえ』」

「妙ですねぇ」

「『最後にもう一つだけ、お伺いします』」

「最後にもう一つだけ、いただきます」

「『事件は会議室で起きてるんじゃない!』」

「社長室で起きてるんです!」

どこかで聞いたようなセリフを、新米刑事に吹き込んでおく。
捜査に役立つとは思わないが、ストレスの多いこの職場では、時々こういう無意味なことをしていないと、正常な精神を保てないのだ。

本青山署の刑事2名が一島重工本社に到着したのは、午前9時の少し前だった。

「西、バカ言ってねぇで行くぞ」

「へい、親分」