7.大切ナモノ



水槽のイトウニシキを眺める二宮の姿が、揺れる水面に映っている。

餌を夢中で食べるイトウニシキは、映り込んだ二宮の顔をお構い無しに食い荒らす。

「・・・」

二宮の、少し疲れたように見える背中。

開いている戸口に静かに立つ二人の人影が、その背中を見ている。

「・・・ここにいたんですね」

そこにいたのは、原田刑事と西刑事だった。

「これはどうも。お久しぶりです」
皮肉を込めて、二宮が言葉を返す。
ほぼ丸一日、二刑事は二宮の尾行から外れていた。

「えぇ、ちょっと色々と進展がありまして」

「犯人につながる手がかりは、何か得られたんですか」

「いいえ、何一つ。それどころか、犯人が一人、減ってしまいました」

不思議そうな顔をする二宮に、原田刑事が、手に持っていたビニール袋を掲げてみせる。

「あなたに一つ、見てもらいたいものがあるんですよ」

ビニール袋の中には、紙が1枚。

そこに印字された文字の意味を理解したとき、二宮の目の色が変わった。


『二重帳簿カラ手ヲ引ケ。

サモナクバ、

オ前ノ大切ナモノヲ奪ウ』


みどり色の封筒に収められていた、あの脅迫状だった。