4.第一被疑者、「元」社長秘書


「ご心配をおかけし、大変申し訳ありません・・・」

「日程につきましては、後ほど改めてご連絡させて・・・」

「恐れ入りますが、現在捜査中なのでコメントは・・・」

社長死亡を受けて、下の階に設けられた臨時の秘書室は、一日中電話が鳴り止まない。
佐伯課長以下秘書課の社員が総動員で、その対応に追われている。

二宮が部屋に入ってくる。
その後について、遅れて入ってくる香港カポックの鉢。

・・・また、珍しいペットを連れて・・・
って、いや、カポックは観葉植物であって動物では決して、ない。

佐伯課長ももちろん、香港カポックの存在に気づきはしたのだが、今、それに構っている暇はなかった。

「二宮君、いいところに来た!」
助けを求める必死の形相。

「電話を代わってくれ!英語じゃないことは確かだ」

二宮は躊躇することなく、差し出された受話器を受け取った。
受話器の向こうから、英語じゃない言語でまくしたてている人の声。

「・・・」
二宮は、少しの間その受話器を耳に当てたまま黙っていたが、突然

「Oho-tsuku.Kosakk-Dance,Purushenko.Uokka,tsundora,Matoryoshika」

などと英語じゃない言語をペラペラと話し出し、最終的に平和裏に受話器を置いた。

「ロシア語でした」

「そ、そうか。助かったよ」
またも年下の、そしてもう秘書課員ではない二宮に助けられた佐伯課長は、不本意ながら礼を述べる。

そして視線は、先ほどの香港カポックに。

「なぜカポックがお前の後を?」

「刑事の西さんですよ」

カポックの根元をよく見れば、顔を緑色に塗り上げた西刑事が、カポックの幹の隙間から二宮を凝視している。

「言ったでしょう、私が疑われているって」

・・・方法はともかく、その執念だけは認めてあげたいところだ。