それは娘が遅く帰った事を叱ったことから始まった。

「いったい何時だと思ってるの!!」

 玄関の壁掛け時計は11時を指していた。

「うっさいなぁ!いいでしょ!他の家だと普通だよ」

「ちょっと待ちなさい!」

 娘はこちらの顔すら見る事なく自分の部屋へと入っていく、わたしは追って部屋に入ろうとしたが、しっかりとロックされていた。

「ちょっと!話はまだ終わってないから開けなさい!」

「っせーんだよ!ババァ!」

その言葉と共にドアに何かを投げつける音がした。

「ちょっと!絵里奈!開けなさい!お母さんの話はまだ終わってないの!」

 しばらくドアを叩いていると、突然扉が開いた。

「ちょっと!なにその荷物は!」

「っせーな!出てってやるよ!こんなウチ!」

「ちょっと待ちなさい!待ちなさい絵里奈!」

 しかし娘はこちらの制止も聞かずに、わたしがつかんだ腕を乱暴に振りほどいて出て行ってしまった。

 あとを追ってマンションの階段を降りていくと、絵里奈はマンション前に止まっている車の後部座席に乗り込んで、車は走り去って行ってしまった。