仕事で疲れた気だるい体を引きずって、マンションのエレベーターを降りる。


ネクタイを緩めながら角を曲がると、玄関の前にひとりの少女が座り込んでいた。


「美優(みゆう)・・・」


それは、8歳年の離れた幼なじみで彼女の美優だった。


チラッと腕時計に目をやると、時計の針は20時を示している。


一体いつから、ここに座り込んでいたんだろう。


冬の風が吹き付けるようになった季節。


高校からそのまま来たのか、美優は制服姿のままだった。


「美優」


しゃがみ込んで、そっと声をかける。


「んっ」


どうやらこんなところで眠り込んでいたらしい。


「みー兄」


手を伸ばし、抱っこをせがむ子供みたいに、俺に抱きついてくる。


そんな美優を抱き上げ、スーツのポケットから鍵を取り出し、部屋に入った。