「よし、おまえらはビールでも飲んで時間を潰して来い。俺はジョージと打ち合わせがある。10時にここで待ってろ」
和樹は再度、札入れからペソを数枚抜き取ると二人に握らせた。
和樹と僕はホテルの駐車場で二人と別れた。
二人は再びトラックで坂を降りていった。
「ここは一流ホテルだからね。あいつらはつまみ出されちまうよ。さっきの網のビアガーデンがやつらの行きつけさ!」
和樹が笑った。
ホテルを含むその辺りのエリアは別天地だった。リゾートホテルに相応しく、広いロビーには白いタキシードを着たバンドマンがスタンダードな音楽を奏で、やけに多い白人客も女性はイブニングかドレス姿、男性はスーツかディナージャケットを羽織っていた。地元の人間らしい男達もいたが、彼らは一緒に〔バロンタガログ〕というフィリピンの男性の正装服を身につけていた。
僕らはフロアーの、籐で出来たイスに腰掛けた。
目の前の丸テーブルには、トロピカルドリンクの写真がプリントしてあるメニューが、立てかけてあった。
僕がそれを眺めていると、白いバロンタガログを着た男が近づいてきた。
「大沢様いらっしゃいませ。チェックインをさせて頂きます」
男が深くお辞儀をしながら、そう言った。
「よお、グラント。今回は部屋が二つだ、分かってるな」
「承っております。ところで大沢様、ジョージ・スツェット様から二度お電話が入っております」
「ああ、途中で寄り道したから遅くなったんだ。・・・彼は何だって?」
「8時に直接ホテルにお見えになるそうです」
和樹はグラントが差し出す書類にサインをし、カードを受け取るとチップを渡した。