僕の心臓が一瞬止まり、脈は早まり呼吸が乱れた。


目の前には、まだ笑顔にあどけなさの残るレディがいた。

 
彼女の叔母が僕を紹介すると、彼女は静かに頷いてやがて


「はじめまして」


と挨拶をくれた。


少し首を傾げて唇の端をきゅっと結ぶそのしぐさは、彼女の喉から奏でられた異国語の響きも手伝って、僕を大いに動揺させた。


それは僕の中で生まれて初めて存在をアピールした相手を強く想う感情であり、そいつのおかげで言動と行動がちぐはぐになるという醜態を、僕はしばしば彼女の前でさらけ出す事になった。


もし僕が彼女より一回りも年上でなかったら、もしかしてもっと落ち着いた態度を取れたかも知れない。


僕は大人として毅然と接しなければならないとか、社会人としての上等な会話を心がけなければならないとか、そんなことをまず考えてしまった。けれどもそんな張りぼてのくだらないプライドなど、彼女を目の前にすると何の効力も発しなかった。


僕は一目で彼女にのめり込んでしまった。


彼女ターミーはまだ17才で、セブ大学の一年生にこの秋なったばかりだった。


そこは7千以上もの島々から成るフィリピン諸島の中でも、最も日本人に人気の観光地の一つでもあるセブ島にある、彼女とその家族の住まいだった。





転職をしてからの僕の初仕事と初恋は、ここから始まった。