「珍しいじゃない、仕事終わりからそんなに飲むなんて」

カウンターの中の屈強な身体つきをしたオカマが、そう言ってハイボールのグラスをコトン、と優しくコースターの上に置いた。


仕事も終わった朝7時。
あたしはここ、『ヴェロニカの酒場』に居た。


「いいの、七回忌だから」

「なによ、それ」

そっけなく答えるあたしに、ここのマスターであるオカマ、カオルちゃんが笑う。


ヴェロニカの酒場は、この界隈で唯一昼まで営業している居酒屋で、度々仕事終わりにシャオファとやって来るいきつけの店だ。

ロンシャンでも風俗店の密集するこの地区で、店の女たちにも酒を飲ませてあげたい、というカオルちゃんの思いから、この営業時間になったらしい。

ただ、営業時間を巡って龍上会とはかなりモメたらしいが、どう納得させたのかは分からない。

カオルちゃんの右頬を真横に走る刃物で出来たような傷を見る限り、あまりそのあたりの事情を聞く気にもならないのだが。


「じゃ、気が済むまで飲んで売り上げに貢献して頂戴」

言ってニカッとくどい笑みを浮かべると、開いた口から覗く金歯の数々。