イオリの店から裏手に一本入ると、古い雑居ビル群に挟まれた狭い石畳の小道に出る。

空を見上げても、電線や物干しロープが無数にビルからビルへと渡されており、まるで何かの籠に閉じ込められたかのような感覚に陥らされる。


その薄暗い小道を左手に真っすぐ進んでいくと、シャオファの働く娼館『紅花』に辿りつく。

中世ヨーロッパの様式を模した外観は、年季が入ってはいるが奇麗に手入れされ、娼館を豪華に演出している。


そしてこの紅花の軒先に捨てられたシャオファを拾って育てたのが、この店の女主人である『ママ』だ。


彼女の本名を知る者はそう多くない。

もう随分前から、自分の店に捨てられた赤ん坊を片っ端から育て、自分の店で働かせている。


そうしていつしか皆が彼女をママと呼び、それが彼女の名となってしまった。



「ママ……」

まだあどけなさの残る少女が、ママの柔らかな巨漢にきゅっとしがみつきながら、怯えた瞳を伏せた。

「大丈夫だよ」

ママはしゃがれた声でそう言うと、少女の肩に手を置き、一層柔らかく包み込む。
ママと少女が居る店のロビーには、他の女たちも集まっていた。


開店時間も迫っているというのに、皆寝巻のまま、化粧すらしていない。