かつての『国』が、国として機能しなくなってしまってから数十年。

国は徐々にその機能を取り戻し、また新たな『国』として成長を始めていた。

長い混乱を引き起こした末に出来上がった為か、その『国』は多数の民族が入り混じる多国籍国家となっていた。

入り混じる、とは言いつつも、民族によっては住む場所も、与えられる仕事も地位も違う。


最も多いのは『トウ系』と呼ばれる言わば原住民のような民族で、一部の上流階級では、当然のように良待遇を受ける者が多い。


暗黙の了解で民族によってランク付けがされるその中に、『ワ系』と呼ばれる者たちが居る。


彼らは昔々の先人が犯したトウ系への罪により、今になってその辛酸を舐めていた。


トウ系はワ系を嫌う。


その為に起こる、いじめ、迫害、闘争。


トウ系とワ系に見た目の差はあまり無い。

扱う言葉や、文化が多少違うだけ。

新しい国で、ワ系は文化を真似、言葉を真似、名を変えてトウ系としてひっそりと暮らす。



そんな国の一角に、トウ系もワ系も、他の人種も入り混じって日々を暮らしている区域があった。

いや、一角と呼ぶにはあまりにも規模が大きい為に、人々はその区域を龍上街(ロンシャンタウン)と呼んでいた。