1.雨は降り続く







「モノを大切にしなさい。」






それは祖父の口癖だった。


手先の器用な私の祖父はモノが壊れたら自力で直し、また再びそれを使う。


だから祖父の家には一般の家庭にないような専門的な工具がいっぱいあった。


モノを直す時の祖父は楽しそうだったから、それが趣味でもあったんだと思う。






−10年前ー






「洋子、待ちなさい。」


穏やかな祖父の声が私を呼び止めた。


祖父の書斎で絵を描いていた私は、鉛筆が持ちにくいくらい短くなってしまったので捨てようとしていた。


母からもらった「さかもとようこ」と名前が入ったピンクのラメ入り鉛筆。


お気に入りだったけど、こんなに短くなったらもう使えない。






「それはまだ使えるよ。」


咎めるわけでもなく、ただそう祖父は言った。