3.この音を君に





そっと箱の中を覗く。


真っ暗な中、人がうずくまっているのが見える。






「香澄。」






呼び掛けると香澄は顔を上げ、きょろきょろと辺りを見回した。






「誰?」


香澄は立ち上がる。


「どうなってるの?ねぇ!誰かたすけて…私…」


香澄は泣きながら叫んだ。


「帰りたい!…私を家に返して!!」


彼女の声は悲鳴に近かった。






俺はその声を聞きながら胸の奥が縄で締め付けられる心地を感じた。


香澄…。


お前はこれで自由なんだぞ?


嬉しくないのか?


ずっと好きなことをしてられるし、老いも死も恐れなくていいんだぞ?


これからは俺とずっと一緒だ。






箱の中の香澄は力なく泣き崩れ、またうずくまった。

きっと香澄は状況についていけなくて混乱しているだけだ。


分かればすぐに喜んでくれる。


それまでの辛抱だ。


それまではこの胸の痛みとも付き合ってやろう。