9月。

夏にだけ咲く花だと思っていた向日葵が、夜風に揺れている。

種撒きの時期を何度かに分けて、来月までその姿を楽しむことができるのだと聞いた。

明るい時間は、まだ夏の暑さの余韻を感じるのに。こうして日が落ちると、冷たい風が肌を撫でて秋の寂しさを伝えた。


「ユナちゃん、夜風は体に毒よ」

サキさんが玄関から顔を出した。

「はーい。いま入るね」


小走りで玄関に向かいながら、あたしはもう一度向日葵畑を振り返った。

丘の上に明かりが点っている。

絵の具の匂いに囲まれてキャンバスに向かう、あいつの姿が頭に浮かんだ。

こんな自分をどうかしてるって思う。


『俺、あきらめないから。由那のこと』

あの日の言葉が何度もリフレインしてる。


絵のモデルになってくれってことなのに。違う意味に聞こえるじゃない。

あたしの心は夏の熱っぽさを抱えたまま、行き場を失っているようだった。