彼女が『呼んで』と願っていた名前を、呼んだ。


イクコでも、クミでも、木岐でもない。

イクミ……と。


そう、決意をしたということ。

郁未と向き合う決意。

郁未を信じて、木岐さんを信じる決意。


「……龍河くん……?」

「もう兄貴に話してんだろ?じゃ、もう知られてるも同然じゃねーの?」

「でもね、名前も顔も教えてないからまだ――」

「それを望んでたのは郁未じゃねーの?」


もう、誰一人としていない教室。

俺と郁未を除いて。


二人きりの教室で、何の音も聞こえず、互いの存在を感じているだけ。


「……同情?」

「同情させるようにお前話してたか?」

「いきなりなんて……」

「お前の努力じゃねーの?確かに俺はお前の相手にならなきゃいけねー奴だとは言われた」