「孝輔、起きて食事が終わったらまた事務所においでよね。」



翌朝、目は覚めていたが、孝輔はいつまでもベッドの中で寝たふりをしていた。


その時、広志が声をかけに来た。


時刻は十時、広志には孝輔の起きているのが分っていたようだ。



「広志さん。」


「なんだ、ひどい顔じゃあないか。
しっかり洗った顔をばあちゃん達に見せるのだよ。」



そう言って広志は事務所へ戻って行った。



その後、洗面に立った孝輔は自分の顔を見て驚いた。


いつもは顔色が悪いと言っても元々白いタイプではない。


日焼けして元気溢れる顔色とは言い難いが、
おとなしい坊ちゃんタイプ、
自分ではそれほどの変化を感じていなかった。


しかし今鏡の前にいるのは、土色の顔にボサボサの髪、
腫れぼったい瞼の中にある虚ろな目… まるで別人だ。


昨夜大輔の手をつかみ… 泣いたまま眠ってしまった。


それでこんなに… 


あの時、自分がジェラシーの対象に感じている大輔の手が温かかった。


大輔の堅い手… 安らぎを感じた。


そんな気持をどう対処したら良いのか。


孝輔は複雑な気持のまま、
広志に言われたようにゆっくりと冷やすように顔を洗い、
下へ下りて行った。


そして祖母の干渉に耐えながら朝食を済ませ、
広志に言われたまま事務所へ入った。





「さっき学校から連絡があったよ。
明日、おじさんに学校へ来て欲しい、と言うことだった。多分… 」


「はい。退学は覚悟しています。」



退学になることは覚悟している。


警察から連絡を受けたのなら当然の事だ。


全て自業自得だから何も言えない。


孝輔は情け無い心情を隠しながら、
精一杯平静さを装い、広志の前に座っている。