「和ちゃんに。」


「ああ、だってこの家も野崎組も和ちゃんの名義になっているのだろ。
さっき広志さんも父さんも何も言わなかったけど… 
昔、母さんが憎らしそうな顔をして言っていた。
覚えていないかい。」


「そんな事を言っていたね。」



孝輔も覚えている。



和也が中学になってからは特に千草とうまく行かず、
千草は腹立たしさのあまり、
和也を追い出したいぐらいだったようだ。


そんな時、時々祖母が母に怒っていた。


文句があるならお前が出ておいき。

孝太さんは野崎組のかしらだけど、ここも野崎組も、
道子さんは和也のために作ってくれた。


お前だって聞いただろ。


和也をもっと大切にしないと、その内に道子さんに追い出されるよ、と言っていた。


昼間のことだったから、父も水木の祖父もいなかったが… 


孝輔もはっきりと覚えている。


あの頃は母が大好きだったが、それでもその時の母の顔は醜かった。




「俺、ちょっぴり心配だ。
将来の夢は出来たが、建築士だなんてなれるかどうかも自信が無い。

それに和ちゃん、どこか子供っぽいところがあるから、
駄目、って、言われそう。」


「大丈夫だよ。
父さんも広志さんも賛成してくれたのだから… 大輔、僕、もう寝ていい。
ちょっと疲れたみたい。」



大輔が出て行くと孝輔はそのままベッドに倒れこむように横たわった。


そして真っ直ぐ上を向き、
見るともなしに天井の木目を見入っている。