「ウワッ… 」


高校二年生になったばかりの野崎大輔、剣道クラブの稽古が終わり、自転車で矢作川の川原を走っていた。


その時、いきなり右腕に痛みを感じ、思わず自転車を止めた。


「野崎、どうかしたのか。」


隣で自転車をこいでいた剣道仲間の山田公樹も慌てて自転車を止め、大輔を案じた声を出している。


もうすぐ高校剣道新人戦三河地区予選、大輔はその大会の優勝候補に名前を挙げられている有望な剣士だ。


今日も剣道部顧問の高橋から、実力は十分だ、後は試合の日まで健康管理を心がけるように、と他の部員達の前ではっきりと言われた。


それが、いきなり自転車を止め、痛そうに腕を押さえているのだから、仲間としては心配になって当たり前だ。



が、その時大輔は腕の痛みだけではなく、心臓がドッキンドッキンと大きく不安に波打ち口には出せない不思議な恐れを感じていた。



ここにいるはずの無い双子の弟、孝輔の声が、泣いているような苦しそうな声が聞こえたように思った。



大輔はとび職人で野崎組を束ねる野崎孝太の次男、三男の孝輔とは双子の兄弟だ。


他に兄の和也と姉の真理子がいる。


双子でも体を動かすのが好きな大輔は、小学校の頃から剣道、いや、初めは二歳上の姉の真理子に合わせるように孝輔と三人、ピアノを習っていた。


三年生になった頃から剣道に転向し、高校に入ってからは髪も短くしたその容姿は見るからにスポーツマンだ。



孝輔も幼稚園からピアノを習っていたが、やはり三年生になった頃からバイオリンに変え、今は名古屋にある、バイオリンの専門課程がある高校に通っている。


もちろん髪は上品な長髪だ。



肌は二人とも父親似で浅黒く、精鋭さが滲み出ている。


孝輔も運動神経は良い方なのに、その雰囲気から、どうしても運動の出来ない子と見られがちだ。



そんな二人だが双子だけあって、最近では話をする時間も少ないが、とても仲が良い。