今までどおりの関係でいるためには、こうするのが一番だと判断した。

なのに紗矢花は、そっとうつむき、寂しそうに笑った。


「そっか……。いないならよかった」


その寂しげな微笑みの意味がわからない。

まるで、好きな人がいると答えた方がよかったみたいに思えてくる。



今まで、本当の兄のように慕ってくれていた紗矢花。

あのキスをきっかけに、自分のことを男として意識し始めているのは知っていた。

紗矢花は思ったことがすぐ顔に出てしまうから。


彼女のそばへ近づくたびに緊張した表情を浮かべることなど、今までにはなかったことだ。

紗矢花がよくわからない……。


「今日はもう送るよ」


あまり長く一緒にいると、隠している気持ちが表に出てしまいそうだった。


「……うん、わかった。帰るね」


紗矢花は目を合わさずに立ち上がり、玄関へ歩いて行った。