俺には普通の家族がわからなかった。


父親も母親も兄も姉も居たけど、本当の意味で居た事はなかった。


父親は仕事。


母親は体が弱く、空気の良い別荘暮らし。
そしてなぜか俺とはあまり会ってくれない。


歳の離れた兄と姉は、学校に部活に塾と、ほとんど家には居なかった。


祖母だけはいつも側に居てくれた。


俺の周りには、祖母と家政婦だけだった。


なんの疑問もなく、生活していた。


小学校でクラスメイトと話して、初めてうちが違う事がわかった。


みんな、毎日両親と暮らしていた。


それが普通の家族だと。


俺は知らない、普通の家族なんて。


そう思いながら家に帰っても、父親も母親も居ない。


様子がおかしいと感じた祖母が、元気づけるためか、俺を父親の経営するスポーツクラブへ連れて行ってくれた。


父親は会社にいてスポーツクラブには居ないが、みんな優しくしてくれ、うれしくて俺は毎日のように通った。


でも、後から気づいてしまった。


それは社長の息子に気を使っただけの事。