前橋圭吾は私の視線から逃げるように下を向いた。

 それが私を一層苛立たせると分かってやっているのだろうか。
 そう疑わずにはいられないほど、私は彼に飽き飽きしていた。

 どんな答えを返してくれるだろう――しかし私の気持ちは決まっていた。
 決まっているつもりだ。

 惹かれたことはない。
 ときめいた瞬間は皆無。
 思えば二人きりのときに感じていたのはおなざりな同情、憐憫、ストレス。

 それでも今までこんな関係を続けてきたのは私の失策だった。
 失態だ。後悔はとめどなく、ため息は止まらない。自分に腹が立つ。

 少しの期待を寄せたこともあった。しかしそんなときに前橋が告げた言葉は、

「待って、もう少し待って」

 そのときの私に会って助言してあげたい。
 待てど暮らせど進展はない。それは、耳障りのいい甘言だと。

 だけど、そのときの私にはとても甘美な響きで心に引っかかった。
 それはするりと根を下ろして私の心を戒めた。

 その言葉に期待した。
 そして確信した。
 納得もした。
 純粋に嬉しかった。
 そして、答えを焦った自分を恥じた。

 だから今まで待った。

 しかし蓋を開けてみればどうだ。
 どこかへ出かけはするものの、行った先でのんびり遊び、いまひとつ盛り上がらない車内にうんざりして、心身ともにぐったりするだけ。

 そんな関係に嫌気がさしていた――それでも誘いを断れなかったのは、私の心が弱かったからだ。
 それが状況を悪化させていたと気づいたとき、私は愕然とした。