【冬馬side】


――……。


いつまでも眠ったままの美和。
それを見つめながら小さなため息。

美和は、見通しの悪い道に入った途端に車と接触した。
幸いその通りは狭く、車のスピードがそれほど出ていなかった為に助かった。
傷は浅いものばかりだけど、いまだに眠っている。


「冬馬くん、入院の準備してくるね。
その間、美和をお願いしてもいいかしら?」

「あ…はい」


連絡を受け慌ててやって来た美和のお母さん。
初めは混乱していたようだけど、医師から説明を受けているうちに落ち着きを取り戻したみたいだ。
それでも、疲れたように笑うその顔にズキリと胸が痛む。


全て、俺のせい。
俺は美和を見ていた。車と接触して、跳ばされる美和を見ていた。

ずっと一番近くに居たはずなのに、
大切なその時に守ってやることが出来なかった。


「…冬馬さん」


ゆっくりとドアが開き、そして、ツラそうな顔をする良明くんが近づく。


「美和ちゃんは…まだ目を覚ましませんか?」

「…うん。脳にも異常は無かったんだけどね」



脳に異常は無い。傷も浅い。
なのに目を覚まさない。


「今は経過を見るしかないよ。
傷は浅いから、きっとすぐに目を覚ます」


そう笑ってみせるけれど、良明くんは下を向いて何も言わない。
多分、俺と同じように感じているんだ。

――このまま目を覚まさなかったらどうしよう?

…そんな不安ばかりが頭に浮かんでいるんだと思う。


「良明くん、少し話そうか。
こんな時だけど、キミには知っておいて欲しい」

「…あいつとの、麻実との関係ですか?」


「そう。俺と麻実の関係」


眠ったままの美和。そこに寄る良明くんを椅子に座るよう促し、少しだけ距離を取る。

ずっと美和に言おうと思っていたことを、目の前に居る良明くんへと話す。
良明くんは、美和にとって大切な人。そして俺たちにとっても大切な人。
そんな風に思えた。