――……。


その夜。
襖で仕切られた部屋で私たちは眠りにつく。
と言っても、とても眠れそうにはない。

やっぱり昼間のことを少し思い出してしまう。
目を閉じると男たちの声が聞こえてきて、身動きが取れなくなった時の恐怖…それを感じる。


「…明日からまた仕事なのにな…」


豆電球の明かりだけが照らす世界でポツリ呟くと、襖がゆっくりと開き、そこから顔を出した良明がニヤリと笑う。


「ちょっと!仕切った意味無いじゃん」

「まぁまぁお嬢さん、少し話をしようじゃないか」


お嬢さん、って…良明どっか壊れちゃった?

相変わらず笑ってる良明はTシャツとハーフパンツ姿でこちら側へとやってくる。
一方私は、夏用のパジャマ姿。
普段見せないような格好だから少し恥ずかしく、首のところまでタオルケットを引き上げる。


「ノーメイクだと誰だかわかんなくなるな」

「…放っとけ」


首より更に上、鼻のところまでタオルケットを引き上げる。


「まぁ俺はどっちのお前でも“お前だ”って認識してるから良いけど。
ちょっと話したいんだけどいいかな?」


…話?
なんだろう。昼間のこと?それとも、別の話?


「お前の過去についての話」

「………」


私の、過去――。



「昔を捨てたって言ったけど、何があったのかなと思って。
ほんとは聞かないつもりだったんだけど、やっぱり知りたいなぁって」


良明は笑顔だけど、さっきまでのニヤついた顔とは違う、優しい笑顔。
全てを受け止めてくれるような顔。

だけど私は…それを素直に受け取ることが出来なかった。