「お母さん、お父さん、美穂、あたし一人暮らししたいの」


フリーター、19歳の夏、あたしは家族を困らせた


「何を言い出すのいきなり…急にそんな事言われても…まさか、あんた男でも出来たの?」


母が目をまん丸にして、見当違いに身振り、手振り、話しを進める


「まさか!こんなお姉ちゃんに男が出来る訳ないし!ねっ、お父さん?」


机をバンと叩き、妹の美穂もまた、目をまん丸にして、母と同じく声を張り上げる


お父さんは横で唸っている


「ちょっ…!!」


あたしが否定の声を発するよりも早く、母が切羽詰まったように早口で話し出す


「でもこんな、一人で何も出来ん美菜が一人暮らししたいなんて急に言い出して…男しか考えられんわ…何で紹介もしてくれんの…?違う違う、あんたどこでどうやって、彼氏なんか出来たの?お母さん、嬉しいけど、…でもね、あんた…」


「おか、お母さん、あたしの話し聞いて…」


「いきなりそんな…でもまあ、あんたみたいな子、好きって言ってくれる男もおるもんだね…でもこんないきなり、心の準備っちゅうもんがあるがね…」


母がどんどん挙動不審になる
あたしの事になるといつもこうだ


確かにあたしは、何をしても一人でうまくこなせない


だからこうして…


「まさか、本当に…お姉ちゃんついにやったね!
お母さん、世の中には色々な男がいるの!こんな冴えないお姉ちゃんでも、いいって言ってくれる人、お姉ちゃんが一人で見つけたんだよ!誉めてあげなくちゃ!ねっ、お姉ちゃん?」


妹が、見当違いな話に余計な相槌をする


「ちがっ…!!」


「わかった!お母さんもう何も言わないから、行きなさいどこへでも!その代わり避妊だけはきちんとしなさいよ!でないと、お父さんとお母さんみたいになっちゃうから」


勝手に話しを進めといて、勝手に話しを終わらす母


お父さんは顔を赤くして、まだ横で唸っている


あたしは、意を決して大きく息を吸った