「香取さん、この辺で結構です」


家の近くまで来たので、降ろしてもらおうと思った。


「どうせだから、家の前まで送るよ。もしかして、俺に家を教えたくない、とか?」


「そ、そんな事はないんですが、申し訳ないかなと……」


「遠慮すんなって」


という事で、本当に家の真ん前まで来てもらった。


「へえー、素敵な家だね? ご両親と住んでるの?」


「えっと、それは……、家族とは一緒ですけど」


「あ、そう? じゃ、お疲れ」


「今日は本当に、ありがとうございました」


「どういたしまして。明日から頑張ろうな?」


「はい。お疲れ様でした」


「お疲れ」


香取さんはニコッと微笑みながら小さく手を挙げ、帰って行った。

その仕種がすごく格好よく見えて、私は呆然と立ったまま、走り去る香取さんの車を見つめていた。


「今の、誰だよ?」