“もう近付かないで”

そんな一方的な言葉を丁寧に守ってみれば、全く、九条先輩と出会うことがなくなった。

「――…いね?」


それが寂しいのかなんなのか、よくわからない感情に悩まされてはいるけれど、

1ヶ月近く経ってみれば、それなりに元気だ。

「―…灰音!」

「へ!?」

机をバンと叩かれて、びっくりして顔を上げてみれば。

眉間に思いっ切りシワを寄せてあたしを睨む、麗奈がいた。

「あんたね、なんでそんな上の空なわけ?」

「あ、あはは、ちょっと考え事を…」

「そればっかじゃない!」

あれ、そうだっけ?

苦笑いでごまかそうとしたのに、目ざとくそれを見つける。

「屋上行かなくなってから、ずっとそんな感じでしょ」



「く、九条先輩は関係ないから!」

「…誰も九条先輩が関係あるとは言ってないから」

あ。

墓穴をほったってこういうことを言うんだろうか。

気まずくなって、軽く目線を逸らす。

それを見て、麗奈は大きなため息を零した。