あやしい人影は
家から出ていったけれど、
両親がまだ表にいることが
気がかりだった。

(お父さん、お母さん、
大丈夫かな?)

こんな夜中に襲われたら
誰も助けてはくれないだろう。

男の子は両親を探しに行くのを
少し躊躇しながらも、
台所に置いてあった
料理包丁を手にとって
覚悟を決めた。

右手に握りしめた包丁は
その刃先にかけて
鈍い光を放っている。

恐怖は一本の刃を中心に
渦を巻いて消えてゆく。

(すぐに家を出ると
さっきの連中に出くわすかもしれない。
もう少ししてから探しに行こう)

男の子は、
今にも両親が玄関の扉を開けて
普通に帰ってくるのではないか、
帰ってきてほしいと
切に祈り続けた。

包丁の鈍い光を見ていると、
意識がぼんやりとしてくる。

静寂のなか、
時間はゆっくりと流れてゆく。

(もういいだろう。そろそろ行こう)

祈りはついに叶わなかった。

表を注意しながら扉を開けて、
今度はしっかりと玄関の鍵をかけた。