心地よい揺れと涼しさの中、
男の子は車の後部座席で
スヤスヤと眠っていた。

車内に鳴るラジオの音が、
頭の中で遠くに聴こえる。

家族は夏休みを利用した
長期旅行の帰りだった。

男の子はボヤけた意識を借りて、
このまま帰り道が
ずっと続けばいいのに
と感じていた。

でも何となく、
もう家の近くまで来ていることも
わかっていた。

そろそろ
起こされるころかもしれない、
だなんて気にしながら、
意識は随分と
ハッキリしてきている。

ただ、今さっきまでの
心地よかった眠りから、
すっかりと離れてしまうのが
嫌だった。

「着いたよ~」

お母さんの明るい声が
意識を現実へと引き上げる。

流れていたラジオと
エンジンの音が止んで、
車内の空気は一段と
寂しいものへと変わった。

男の子はむくっと起き上がって、
寝ぼけまなこで車を降りた。

辺りは真っ暗で、
虫の音もなく
静まり返っている。

周りには誰もいない。

今何時なんだろう、
そんなことを考えながら
車の方を振り返ると・・・・・・
誰もいない。

(お父さん?お母さん?)

その瞬間、
男の子はこの世界で
自分独りだけが
取り残されたような、
酷い孤独感と不安に
取り憑かれてしまった。