―蓮side―

それは朝礼での課長の一言から始まった。


刑事課の体格の良い男たちが全員集合した部署内はむさ苦しい。

季節は9月末。

10月に入ろうとしているがまだまだ気温は高く。

クーラーもついてはいるが、全員が集合して人口密度の高い部屋には効果がないような気もしていた。

朝8時30分。

先程眠気覚ましにコーヒーを飲んだといっても、俺の頭はぼんやりとしていて。

今日中に提出しなければならないいくつかの報告書のことを思い浮かべていた。


その時、同僚たちから歓声が上がる。


「その話、本当ですか課長!」
「あぁ、今日だけだがな」
「それでもいいっす!」


同世代の同僚である沖田が課長へ問いかけ、その返答に目を輝かせていた。

ぼんやりしていた俺には、その話の内容がつかめず。

向かいの席に立っている先輩、小笠原さんの方を向く。


「課長、なんて言ったんですか?」

「あれ、蓮ちゃん聞いてなかったの? イケない子だね~お兄ちゃんお仕置きちゃうよ?」

「じゃあ、答えてくれなくていいです」

「おい、冗談だよ。本気にすんなって! 俺が悪かったよ蓮ちゃん!」


俺のあっさりとした対応に戸惑ったらしい小笠原さんが慌てて弁解してくる。


「あの子が来るんだって」

「あの子?」

「お前も名前くらい知ってんだろ?」

「は?」


「工藤茅那」


「……もう一度、名前教えてもらってもいいですか」


聞き間違いだ。

そう、俺はまだ寝ぼけているんだ。

昨日は睡眠時間が少なかった。

朝方に寝てしまったし、そのせいで聞こえないものが聞こえている。

そうだ、絶対におかしい。


しかし、小笠原さんは俺の考えを打ち砕く。


「だから~工藤茅那だよ、工藤茅那。あの元BKN48のトップ!」


その一言に、内心『ありえない』とつぶやいた。