―蓮side―

某警察署、刑事課のある室内に俺はいた。

クーラーの利いた室内でノートパソコンに向かい、カタカタとキーボードを打っていく。

目の前には今日中に片づけなければならない書類が山積みだ。

時刻は午後12時をまわっている。

いいところで一旦休もうかと思っていた時。


「蓮ちゃ~ん? メシ行くぞ~?」


刑事課のある室内の入り口から自分を呼ぶ声がした。

視線を向けると、職場の先輩である小笠原刑事がそこにはいた。


「まだやってんの~? ほら休憩だ休憩! 冷やし中華食いにいこうぜ。俺美味いとこ見つけたの~」


煙草を片手にそんなことを言う彼は、顎髭を生やし、ワイシャツには少しシワがあって、ネクタイも緩め気味。

話し方もゆるいし、若干……軽い男に見える。

いや実際に軽いんだが。

普通に人が見たら……刑事には到底見えない。



そして、この署内で唯一俺のことを『高瀬』という名字ではなく『蓮ちゃん』と呼ぶ人だ。


縦社会である警察は、家族や親戚の階級などでその息子や孫たちを周囲から丁重に扱わなければならないという暗黙の掟のようなものが存在する。

俺も、そのひとりに入るだろう。

父親は現役の警視監で祖父は元警視総監。

その他の親戚たちもどこそこの課長やら部長やらに就いているようだし。

周囲から見れば、俺は生粋のボンボンって感じなんだろう。

しかし、彼は俺のことをボンボン扱いしない。


「おーい、さっさと来いよ蓮ちゃん」

「はい」


そんな小笠原さんとの関係が居心地良くて、よくメシや飲みに行ったりする。

呼ばれた俺は、財布とスマホだけを持って席を立つ。

数歩先を歩く小笠原さんのところへ向かおうとした、その時。

ポケットに入れていたスマホが着信で震えだした。