ケータイ小説 野いちご

地味子の秘密*番外編*

◆とある朝の彼ら


ー蓮sideー


「…………La………La………」

なにやら、近くで聞こえて来るものがあり……瞼を開ける。


朝日の差し込むクリーム色のカーテン。
白やクリーム色、焦げ茶色を基調とした家具。
テレビ。
ソファー。
テーブル。
ドレッサー。
大量のCDを収納するための棚。
ファッション誌や文庫などをおさめた本棚。
シンプルな部屋の構造が目に飛び込んできた。


あぁ……茅那の部屋だな。


頭で自分がどこにいるのかを理解し、顔を横に向けた。
だか、俺の隣にはいない。

彼女を目で探すと、シーツを体に巻き付けたままで……パソコンの前に座っていた。
俺には背中を向けているから、見えるのは、茶髪で腰に届くほど長い、ストレートヘアーだけ。


昨日。
明日がお互いに休みだと知り、俺が彼女の自宅に泊まった。

会うのも久しぶりで。
多分……1ヶ月以上?
久々にテレビではなく、本物の顔を見た茅那は、またキレイになっていた。


先日、誕生日を向かえ、24になった俺。
春からの異動でバタバタしていた仕事も一段落したところ。
現在は警察庁の、とある部署に配属されている。
2年間見習いとして勤務し、警察大学校での研修後、階級が昇進する。
その後は、警察庁か警視庁へ配属されると聞いている。


一方、現在の茅那はというと……。


「あ。ごめんなさい。起こしました?」


クルリと、俺が寝ていたベッドの方を振り向き、問いかけてくる。


「いや、別に。なにしてんだ?」


彼女に返し、ベッドから上体を起こした。
部屋の中は朝の光が差し込むことで、やや明るい。
照明をつける必要はなかった。


「昨夜のうちに、新曲がパソコンに届いていたみたいなんです。ちょっと確認してました」


えへへ……と、嬉しそうな顔で話す。


そう……彼女、工藤茅那は、現在も歌手だ。
俺の大学卒と同時に、BKN48グループを卒業した。
それからはソロの歌手となり、今では時代を代表する歌姫などと、メディアに称賛されることも多い。


グループに在籍していた時より、今の方がイキイキしている。
髪も伸びてさらに女らしくなった。


朝日に照らされている真っ白で滑らかな肌。
指通りの良い、程よく明るい茶色い髪。
もとは黒髪だったが……最近はこの色が定着した。
整った顔立ちに、抜群のスタイル。
唄う時だけ、凜として。
それ以外は……かなりの甘えん坊。


「La、La、La……La…La……」


小さくてもはっきりと、聞こえる彼女の歌声。
楽しそうに口ずさんでいた。
さっき聞こえたのは、コイツの声か。


その後。
一通り、確認し終わったのか。


「今何時だろう?」


そう言って、俺のいるベッドへと戻ってきた。
体に真っ白なシーツを巻き付けたまま。

ベッドサイドに置かれた目覚まし時計を見ると、午前7時を少し過ぎたところで。


「まだこんな時間かぁ……思ったより早かったですね」


長い髪を片耳に掛けながら、ニッコリと俺に笑ってみせた。

耳には、リボンのピアスがつけられている。
俺が買ってあげたものを、いまだに大切に身につけている彼女。


大衆の歌姫。
テレビで見ない日はない。
歌だけでなく。

化粧品のCM。
音楽プレイヤー製品のCM。
香水のプロデュース。
アクセサリーブランドとのコラボ。
有名ブランドのモデルや商品コラボ。
雑誌のグラビアや特集記事。


たまに、単発ドラマの主役やヒロインなど。


多方面から引っ張りだこの売れっ子だ。



「高瀬くん、私の話聞いてますか?」

「……あ、悪い。聞いてなかった」

「もうっ……だからですね」


彼女が少々呆れた様子で話す。
話を聞いてなかったからか。
頬を膨らまし……拗ねている。


グループ卒業後も、俺らの交際に関しては秘密だ。
まだまだ仕事が大切な時期。
スキャンダルひとつが芸能生活の命取りになるから。
ふたりで会うのも、細心の注意を払い……友人たちの協力もあってこそだ。



「高瀬くん、女性警官にモテモテだろうなぁ……」


俺がひとり考え事にふけっていると、そんな呟きが聞こえてきた。


「なに、不安?」

「不安ですよっ!!高瀬くん、絶対にモテるでしょ?」

「モテねーよ」

「ウソだぁ……」


そう言って俺の腕を掴み、顔を覗きこむ。


「私よりも、素敵な女の子見つけました?」

「はァ?」

「だって女性警官ってミニスカートでしょう?キレイな人、多そうだし……高瀬くん、絶対狙われるだろうし……」


ブツブツと、うつむいたまま続けた。


「おい、茅那」

「え。いるんですか!?」

「いねーよ」

「本当に?」


心配そうな茅那。

そんなに聞かなくたって……俺はお前だけだっつーの。


「バカ茅那。もう黙れ」


彼女の後頭部に手を回し、そのまま有無を言わさずに……唇を塞いだ。


あり得ない。
コイツ以外の女なんて、こっちから願い下げ。

確かに……職場の他課の女たちから絡まれることは多いかと。
飲みに誘われることもあるが、付き合い以上の関係は断る。


「本当に……浮気しちゃイヤですからね?」


唇を離しての第一声は、コレ。
どんだけ心配してんだコイツは。


「その言葉、そっくりそのままお前に返す」


デコピンとともに返すと、茅那は一瞬目をぎゅっと閉じ、ゆっくり開けた。



「それは大丈夫ですよ。私、高瀬くんのこと大好きですから」


フフっと、さも俺の発言がおかしいと言うように笑い、頬に口づける。

その時、彼女の左耳につけられたリボンとは違う……キレイにカッティングされたアクアマリンのピアスが、朝日を受けて光った。

2個セットだったものを、ひとつは茅那。

もうひとつは俺が身につけている。

お互いに仕事で会えない日々が続くため、お揃いをするようになった。




女嫌いで、彼女なんて作ることはないって思ってたのになぁ……。
こうも大事にしたいヤツが出来るとは。



「ふーん……俺も好き」



彼女に言うと、嬉しそうに笑う。
その笑顔に魅せられて……もう一度、茅那を抱きしめて口づけた。



――END――

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