――陸side――

これは、俺らが高校2年の時のことである。

俺、滝本陸には彼女がいる。

神崎杏樹。

コイツだ。

学園内外からの別名は……“かぐや姫”。

漆黒のサラサラと流れる長い髪。

透き通るような白い肌。

抜群に整った小さな顔とスタイル。

着物を着せると、本当に昔話の絵本から出てきたような姫に見える。

和の雰囲気を纏う、絶世の美女。

その彼女には、ファンクラブというものが存在している。

だが、杏自体は……その存在を全く知らない。

自分が、男たちにモテているとは露ほども思っていない。

アイツは自分の容姿に無自覚だ。


容姿以外のことでは、学年トップの成績である俺の、次の成績を持ち、語学堪能。

運動神経も良く、たまに『陸、あそぼ!』と言ってスポーツ対決をしたりするが、何でもこなす。

料理の腕は、プロのシェフも認めるほどで、申し分ない。

俺が望めば、ほとんどのことは聞いてくれる。


杏は、他のヤツらからしたら、完璧な女に見えるだろう。

俺でも、そう見えることがあるからな。



でも、アイツにはひとつ……俺が望んでもしてくれないことがある。



それは――――ヤキモチ。