“可愛い妹”


俺が奏をはっきりとそう認識したのは、3歳の頃だった。

あの日のことは今でもはっきりと覚えている。


あの日まで俺は奏のことを、ただでさえ忙しくてなかなか自分を構ってくれない両親を横からかっさらっていく、“鼻持ちならない存在”としか思っていなかった。



『フンッ』


また父さんを取られた。

さっきまで坂上さんと遊んでたと思ったのに。


“お兄ちゃん”なんて、つくづくなりたくないものだ。


僕と話していた父さんにトテトテと近寄ってきたかと思うと、急にその背中に抱きついた。


「ん?

どうしたんだ、奏?」


「だっこ」


小首を傾げておねだりポーズ。

父さんは奏に甘い。

すぐに頬を緩めて、奏を抱き上げた。


キャッキャと喜ぶ奏が恨めしい。


またあざとい手を……。