「あ、れ?向井?」



家までの帰り道。

意外な人物の出現に、私は少し驚いて首を傾げた。



「お帰りなさいやし、姉御」



そう言って、深々と頭を下げたのは、あの若菜ちゃんの世話役、向井聖【むかいひじり】だった。

黒いスーツを着た背の高い精悍な青年。
そして、若菜ちゃんに忠誠を誓っている。


私の向井に対するイメージはそんな感じ。


はっきり言って、そんなに話をした覚えもない。

その向井が、なぜ若菜ちゃんから離れてこんなところにいるんだろう。



「あー、うん。ただいま。…てか、どうしたの?」



私がそう問うと、向井は申し訳なさそうな表情で続けた。



「一言、姉御にお詫びをと思いまして」


「お詫び?何で?」



別に、向井に謝ってもらわなきゃいけないことなんてないと思うんだけど…。


私が益々不思議そうな顔をしていたからか、向井は思い詰めたように口を開いた。



「謝りたいのは、お嬢のことです」