私がこれまで過ごして来た何千何万もの日々を、玲はたった一日でひっくり返してくれた。

 いい歳をしたオヤジ連中が、揃いも揃って彼女の放つエネルギーに巻き込まれ、揺さぶられた。

 浅倉はスタジオでの一日をそっくり録音し、心也と連日その音源を編集している。

 深海魚は、押入れの奥にしまい込んであったスティックを引っ張り出した。

 店の開店時間前に、近所のライブハウスで一人ドラムを叩いているという。

 私は……

 あの日、ほんの一瞬だけ舞い降りた音を追い求めていた。

 確かに降って来た筈だった。

 自分が、今まで出した事も聴いた事も無いメロディ。

 ほんの一小節だけ。

 たった数個の音符なのに、どうしても五線譜に書けない。

 紙の上に記した音を実際にギターで鳴らしてみても、あの時と同じ音にはならなかった。

 玲が十七歳になる前日、携帯に那津子からのメールが入っていた。

『貴方の恋人の誕生日が明日なの。久里浜の施設でパーティーをします。』

 貴方の恋人……

 その文面に訳も無くうろたえる私……。