――今夜は満月だ。


 この前、偶然手に入れた携帯のナンバー。
 こっそり、アドレス帳に登録してある。
 あれ以来、携帯を握り締めて見つめるのが習慣になってきつつある。

 あの次の日クロネコは、世界の終わりが来た様な真っ青な顔で、ウサギに謝っていた。それからふとした瞬間に、割れたガラスの月を泣きそうな表情で見つめているのも見つけてしまった。
 アレって多分、俺とぶつかった時に落したんだよな……。

 恥を忍んでウサギから、クロネコが好きな雑貨屋を聞き出して、恥を忍んで、雑貨屋に行ってストラップを買った。
 お陰でオレの鞄の中には、不似合いなキラキラした包みがずっと入ったままだ。
 凄く、物凄く恥ずかしかったし、ガラじゃねぇ。
 だけど。

「あ゛ぁ~!」

 だからって、持ってるだけじゃ意味ねぇし。
 ウサギに大見得切った手前、引くわけにもいかない。

 空を見上げる。
 あの日もこんな満月なら、クロネコの携帯もすぐに見つかったんだろう。
 あの時の別れ際の笑顔、可愛かったな……。

『ありがと』

 月を見上げていると、握り締める携帯が妙に意識された。


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