その森は限りなく真っ直ぐ真っ直ぐに続いているようだ。
長く長く、先が見えない。
森の先には微かに米粒ほどの明かりが、かろうじて私には見えるだけであった。

私は、聳え立つ樹木の間を潜り抜けるために、森の入り口に立っていた。

さっきまで、街を歩いていたとき、太陽が暑いほどに私を苛めていた。
しかし今は、その太陽さえも樹木に屈服したようだった。

時間は確か14時を回っているはずだ。
私は時計も持たず携帯も持たず体ひとつでここにいる。
堂々としたものだと自分に少し酔っている。

私は意を決して前に進んだ。

なぜなら、この先には私の求めてる世界がある、そう思ったからだ。
誰に言われたわけでもない。
しかし、自分の感がそう言っているのだ。
私の感は意外に当たる。
意外とは自分で言うのもなんだが、人生のトラブルはそれで回避し、平穏に過ごしてきたと自負している。
それが本当ならこの先へ進むことも回避するべきなのかと、私は思う気持ちもあった。

しかし・・・
私の閉じこもった心を解き放つために・・・。

その長年積もった気持ちが自分の心の領域から溢れているのも分かっていた。
抑えきれない気持ち、そんな感情を抱いていたのだった。

私が一歩、そして二歩進んだとき、一つ一つの樹木の上のほうからいっせいに現れた。
現れたものは、一見人間にも見えたが、樹木から逆さづりになっていた。こうもりのようにだ。
樹木の数だけ・・何十匹、いや・・何百匹・・。一つの木に一匹ずつ・・。
そしてそれは、長い舌をだし、ニヤニヤとこっちを見てうすら笑っていた。
ひょろ長い体を右へ左へ揺らし・・、私を威嚇しているのだろうか。
確かにそれを見て私は一瞬たじろいだ。
だが、今の私には悪魔だろうが、天使だろうが、動かされぬ心があった。
少し前の私には考えられない事だった。
自分の中の自分がどこかへ行ってしまったのだろうか・・。

どれくらい歩いただろう。
歩きながらも、私の顔の前には、その悪魔らしきものの顔が現れは消え、頬を舐められは消え、
「おい!」と声をかけられたりもした。

私は無言を貫き歩き続けた。
しかし、私の精神が頑固だった入り口付近の思いも、限界に達しようとしていた。