今日もこの村には、澄んだ音色が溢れている。

ただ、それを美しいと思うかどうかは人それぞれで。
どれほど心に響く音色だろうと、聴く人の心が醜ければ何の意味も持たない。


「また今日もあの音だよ」

しかめっ面で吐き捨てるように言う人もいれば、

「綺麗な音…」

私のように、その音の魅力にとり憑かれる人もいる。


私はこの笛吹きの正体を確かめに行ったあの日から、彼のことが忘れられずにいた。
夜月という神秘的な名前を持つ、彼を。

「撫子、どうかしたの?」

友達に訊かれても本当のことを言うわけにはいかない。
仮に言ったとして、本気にしてくれるとも思えなかった。

あの山に住む笛吹きの正体を知るのは、この村で私だけ。
胸の中がむず痒くて、一刻も早く皆に言って回りたいような衝動に駆られる。


その衝動を抑えるために私は、再び長い道のりを超えて夜月のもとを訪れた。