次の日のホームルームに、鳴沢先生は現れなかった。


代わりに教室へやって来た定年前の学年主任が
「鳴沢先生は自己都合で退職されることになりました」
と、告げたためにクラスは騒然となった。


「うそー」


「なんで?」


あちこちで悲鳴のような声があがる。


「静かに!」


学年主任の先生が大きな声でいさめた。


「しばらく、私がこのクラスを受け持ちます」



教室のざわめきが、失望の溜め息に変わる。


「この件についての話はこれで終わりです。鳴沢先生は海外の大学に研修に行かれるだけだから、あれこれ詮索しないように」


その話はそこで打ち切られた。


が、お昼休みの間もクラスメイトたちは鳴沢先生の話ばかりしていた。


たぶん、学年主任が口にした
『よけいな詮索をしないように』
と言う一言が、逆に彼女たちの想像力をたくましくさせてしまったようだった。

中には
「鳴沢先生、まさか生徒と駆け落ちとかいうんじゃないよね?」
と、泣きそうになっている子もいた。


やはり、鳴沢先生のファンだった生徒たちの心の中には、チャペルにまつわる物語への憧れが強いらしい。


あの物語の結末が、どれほど切なく悲しいものだったかも知らないで……。