「ただいま……」


小さい声で言い、玄関に知らない靴がないことを確かめてから家に入った。


「ただいまー」


今度は普通に言う。


「おかえり」


お父さんの声。


私は大きく息を吸い込み、台所にいるお父さんを見ないようにして一気にしゃべった。


「ゴハン、いらない。友だちと食べて来ちゃった、ごめんね」


秘密で張り裂けそうな胸を抱えたまま、お父さんの向かいに座ってゴハンを食べる勇気がない。


私は足早に2階へ上がった。


「は―――……っ」


溜め息をつき、制服のままベッドに転がった。


―――明日、鳴沢先生の部屋に行かなきゃならない……。


先生はクラスメイトたちにとって憧れの存在。


いっぱいボーイフレンドがいる明奈でさえ、鳴沢先生が好きだと言う。


いいじゃん。


そんな学園アイドルみたいな鳴沢先生が、私に興味があるって言ってくれてるんだから。


何とか自分をだまそうとしてみた。


けれど、どう考えても、私にとっての担任は『恐怖』以外の何者でもない。


私から無理やりファーストキスを奪った卑劣な人間。


思い出すだけで悔し涙がわきあがってくる。